「また、届かなかった…」
体育館の天井を見上げながら、私は床に手をついた。チームメイトの「ドンマイ!」という声が、なぜか胸に刺さる。
3か月前まで、私はこのチームで一番高くジャンプできる選手だった。スパイクを決める瞬間の爽快感。ブロックで相手の攻撃を止めた時の達成感。それが、私の誇りだった。
でも、40歳を過ぎたあたりから、何かが違う。
踏み切る瞬間、いつもの感覚で跳んだはずなのに、身体が浮かない。ボールに届かない。着地した瞬間、膝がギシギシと音を立てる。
「もう、若くないのかな…」
練習後の更衣室で、一人つぶやいた。鏡に映る自分の顔は、疲れ切っていた。
あの日、私は「ママさんバレー」を辞めようと思った
子供が寝た後、スマホで検索した。
「40代 ジャンプ力 戻す方法」
出てくるのは、筋トレメニューばかり。週3回のスクワット、プライオメトリクス、プロテイン摂取…。
「そんな時間、どこにあるの?」
朝5時起床。子供の朝食とお弁当。仕事。夕方の習い事の送迎。夕食。片付け。気づけば夜11時。自分のための時間なんて、1分もない。
それでも、筋トレを始めてみた。
YouTubeの動画を見ながら、夜中にスクワット。膝が痛い。次の日、階段を降りるのも辛い。1週間続けたけれど、ジャンプ力が戻る気配はゼロ。
「私、何やってるんだろう…」
その日の練習で、またスパイクを空振りした。
チームメイトのAさんが、さりげなくカバーに入ってくれる。彼女は45歳。私より背も低い。でも、彼女のトスは絶妙で、いつもチームを救っている。
「ごめん、また迷惑かけた」
そう言うと、Aさんは笑った。
「何言ってるの。バレーは跳ぶだけが全てじゃないよ」
その言葉が、私の中で何かを壊した。
「跳べない」を認めた日、見えてきた新しいコート
次の練習日、私は監督に相談した。
「ジャンプ力が落ちて、迷惑かけてます。ポジション変更とか、考えた方がいいでしょうか」
監督は、少し考えてから言った。
「君は今まで、ジャンプ力”だけ”で戦ってきたね。でも、40代のバレーは違うルールで戦うんだよ。跳べないなら、跳ばなくていい。その代わり、”読む力”を磨こう」
その日から、私のバレーボールは変わった。
変化1:シューズを変えた
重厚なバッシュから、軽量シューズへ。最初は頼りない感じがしたけれど、横への動きが格段に速くなった。「跳ぶ」から「動く」へ。この1歩が、私を救った。
変化2:朝5分のストレッチを習慣化
筋トレは続かなかったけれど、朝のストレッチだけは続けられた。子供が起きる前の5分間。股関節を伸ばす。アキレス腱を緩める。
「これだけで、こんなに違うんだ…」
身体が軽くなり、踏み切りの瞬間の”キレ”が少しだけ戻った。高くは跳べないけれど、タイミングが合うようになった。
変化3:「跳ばない技術」の習得
監督から教わったのは、相手の動きを読む技術だった。
- スパイカーの目線を見る
- トスの軌道から着地点を予測する
- ブロックに跳ばず、レシーブポジションに早めに入る
「跳べないなら、跳ばなくていい。その代わり、誰よりも早く”次”を読め」
監督の言葉が、私の中で腑に落ちた。
3か月後、私は”跳ばない”エースになっていた
「ナイスレシーブ!」
チームメイトの声が響く。私は床ギリギリでボールを拾い上げた。相手のスパイクが来る瞬間、私はすでにそこにいた。
試合後、相手チームの選手が言った。
「あなた、全然跳んでないのに、全部拾うよね。どうやってるの?」
私は笑った。
「跳べなくなったから、読むようになったんです」
帰り道、娘が言った。
「ママ、今日かっこよかったよ。ジャンプしてないのに、全部取ってた」
その言葉が、今までで一番嬉しかった。
40代のジャンプ力低下は「終わり」じゃない、「進化」の始まり
あなたも今、私と同じ悩みを抱えているかもしれない。
「ジャンプ力が落ちた」 「チームに迷惑をかけている」 「もう、バレーを続ける意味があるのか…」
でも、断言できる。
40代のコートは、20代とは違うルールで戦う場所だ。
若い頃は、身体能力だけで勝負できた。でも今は違う。経験、判断力、チームワーク。そして何より、「自分の限界を知り、それを武器に変える力」。
これが、40代のバレーボールの真髄だ。
あなたが今日からできる3つのこと
1. シューズを見直す 重いバッシュを履いているなら、軽量モデルに変えてみて。「跳ぶ」から「動く」への転換は、シューズから始まる。
2. 朝5分のストレッチを習慣化 筋トレは続かなくていい。股関節とアキレス腱を毎朝5分伸ばすだけで、身体の”キレ”が変わる。
3. 「読む力」を鍛える 相手の目線、トスの軌道、スパイカーの癖。DVDや動画を見て、”読む”トレーニングをしてみよう。跳べないなら、誰よりも早く”次”を読めばいい。
最後に:ジャンプ力が落ちた日、私のバレーボールは本当に始まった
あの日、床に手をついた私に、チームメイトが言った。
「ドンマイ」
でも今なら、わかる。
あれは「ドンマイ」じゃなく、「ようこそ、新しいステージへ」だったんだと。
40代のコートは、確かに20代とは違う。
でも、諦める場所じゃない。
進化する場所だ。
あなたのジャンプ力が落ちたなら、それは”終わり”じゃない。
新しい武器を手に入れる、チャンスだ。
さあ、もう一度コートに立とう。
今度は、「跳ばない」あなたで。